「月刊ととろ」第147号 web版

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ttr14_07 出勤途中の頬に吹きつける風はまだ冷たいものの、日差しの高さに春を感じるようになりました。いよいよ四月、新年度の始まりです。今回は例年以上に多数の転入者、新採用者の方々をお迎えすることができました。皆さん、いわき病院にようこそ。ともに手を携え、患者さんの目線に立った良質な医療を提供して参りましょう。
 あの筆舌に尽くしがたい惨禍をもたらした東日本大震災から早くも五年が経過し、病院周辺の景色も当時とは大きく異なってきました。震災前には瀟洒な家が建ち並んでいた海岸沿いには病院の二階の高さにまで盛り土が造成され、その上には防災道路が敷設されつつあります。このため一階の窓からは海が全く見えなくなり、もはや震災前の風景を想像することも難しくなってきました。
 たしかにこれで病院周辺の安全性はかなり向上することとは思いますが、すでに繰り返しお話ししてきましたように、当院は現在の豊間海岸から離れ、内陸の小名浜野田地区に新築移転することが決定しています。幸い3月中に移転に関わる法律上の手続きをすべて完了することができましたので、近々地権者の方々と用地買収交渉に入る予定です。順調にいけば実施設計を経て、9月頃には工事入札へと進むことになります。神経難病と重症心身障害児者医療を二本柱としつつ、地域医療にも対応できるユニークな設計の新病院がいよいよその姿を現し始めます。また医療機器整備についても朗報が飛び込んできました。新病院竣工に合わせ、新たにMRIを設置することが機構本部から認可されたのです。それも3テスラという強力な磁場を発生する上位機種であり、これはいわき市内では唯一の存在となります。従来のMRIでは実現困難であった撮像法がいろいろ可能となる素晴らしい装置ですので、多施設共同利用を積極的に推進して行きたいと考えています。
 このように新病院開院に向けて夢は広がりますが、医療を巡る社会情勢は予断を許しません。2025年問題と言われているように、あと10年以内には団塊の世代の方々が後期高齢者の仲間入りをします。少子高齢化がますます進行する中で、我が国の財政状況は一層厳しさを増していくことでしょう。国立病院機構においてもこれからは国からの出資も見込めませんし、診療報酬削減の流れが加速すれば、経営状況も一段と悪化することが避けられません。こういった情勢を踏まえ、機構本部内でも経営強靱化のための構想を練っているところですが、各施設においてもそれぞれの立ち位置について的確な分析を行い、将来にわたって持続可能な運営方針を立てていくことが求められています。当院はすでにいわき二次医療圏における神経難病と重症心身障害児者医療の中心的存在となってはいますが、これはたまたまライバルとなる医療機関が存在しないがゆえの僥倖に過ぎないと考えるべきです。「今までこうやってきたから」「このやり方でなんとかなっていたから」という姿勢では病院がもたない、という危機意識を常に抱き、現状に甘んじることなく、さらなるレベルアップを目指していきましょう。それでは今年度もよろしくお願いいたします。

院長 : 関 晴朗

 

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 視力、聴力などの一次的な知覚機能に障害がないにもかかわらず、対象を把握できない認知の障害をいいます。特徴としては感覚様式特異性が挙げられます。例えば、視覚を通して対象認知が出来なくても、触覚や聴覚など障害のない別の感覚を利用すれば認知可能となります。これを利用して日常生活の困難さを回避することが出来ます。

 これから代表的な失認の種類について述べます。

① 統覚型視覚失認
要素的な知覚(光の強弱、対象の大小、色彩弁別、運動の方向)は保たれていますが、視知覚障害のために形態の知覚が成立していない状態です。そのため、目の前の物品の認知が困難となります。絵を模写することも出来ません。

② 連合型視覚失認
要素的な知覚、形態の知覚ともに保たれていますが、それに関する記憶や知識と結び付ける事が出来ないために、対象の認知が困難な状態です。形態の知覚自体は成立しているので、絵を正確に模写することが出来ます。

③ 相貌失認
発症前には熟知していたはずの顔を見て誰か分からなくなる症状です。見ている対象が顔であることは分かっていますが、知っている相手かどうかの判断も出来ません。しかし、相手の声を聞くとすぐに認識できます。

④ 街並失認
建物や風景に対する失認です。自宅や近所の風景などを見ても既知感が無く、現在見ている風景がどこなのか分からず道に迷ってしまいます。

⑤ 道順障害
建物や風景の認知は可能ですが、それに基づいてどの方向に進んで良いか分からなくなる状態です。

⑥ 聴覚失認
聴力自体には問題なくても、聞いた音の意味が分からなくなる症状です。

⑦ 触覚失認
感覚障害が無いにも関わらず、物品を触ってもそれが何か分からない症状です。

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 失認は視力や聴力に問題が無いにも関わらず対象を認識出来ない状態です。そのため、周囲の理解が中々得られづらいとされています。支援者はどのような症状があるかを見極め、他の感覚を利用した有効な認識方法を提案し、日常生活が送れるように働きかけていくことが大切となります。

リハビリテーション科 言語聴覚士: 渡邉 大介

 
 

新任者自己紹介

 2月15日から第1病棟で働く事になりました泉川明子です。
 母の介護を通してこの仕事で難病の患者の方々や看護師の皆様の少しでも役に立てたらという思いで応募致しました。初めての職種でわからない事ばかりですが、スタッフの皆様のご指導を受けながら一つでも多く学んでお役に立てる様、日々努力していきたいと思っております。何かとご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します。

第1病棟 業務技術員 泉川 明子

 
 

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ttr23_05 私が血液内科病棟に配置換えになって、間もない頃のことでした。急性骨髄性白血病と診断を受けていた50歳男性のAさんが入院してきました。既に余命一年の告知を受けており、化学療法に期待するしかない状態でした。
 化学療法が2クール目に入った時、Aさんは副作用の嘔気が続きイライラしている様子でした。ある夜勤の日、訪室して食事摂取量と嘔気の有無を伺いました。「見れば分かるだろう!毎日毎日おなじことを何度も!前の看護師から引き継ぎはないのか?どうなってるんだ!」と突然大きな声をあげました。あまりの迫力に私は驚き、萎縮してしまいました。その後も「新人看護師は担当に付けないでくれ。」、「医者と連携がとれていないだろう。」などの訴えが続き、同室者からも孤立するようになって行きました。そして私は、Aさんの担当になる夜勤が憂鬱でたまりませんでした。
 そんな時、Aさんは主治医から外泊を勧められました。始めは外泊による合併症を心配して悩んでいた様子でしたが、看護師である妻の支援を受けながら外泊することを決意しました。外泊から帰院されたAさんは、別人かと見間違う程にスッキリとした表情で「こんな所に閉じ込められていて、生きた心地がしなかったよ!看護師さんに酷いこと行ってしまったな!」と恥ずかしそうに話してくれました。そんな笑顔が嬉しかったと共に、自分の不甲斐なさを痛感しました。強い意志をもって化学療法と戦いながら、副作用に苦しんでいたAさん。その心の叫びに気付けずに、距離をとっていた私。余裕をもった看護ができず、自分本位となっていたのでした。少しでも早くAさんの心の声に耳を傾けていたら、Aさんは安心して治療と向き合うことが出来ていたかもしれません。気持ちに余裕がなく、本質を見失っていた自分を情けなく思うとともに、患者さんに真摯に向き合うことの大切さを改めて学ぶことできました。それからは、Aさんの気分に合わせながらコミュニケーションを図って行くことで、Aさんの方からも自然に声を掛けて来るようになりました。そして、同室者とも笑顔で話している姿も見られるようになりました。
 常に、心にゆとりをもっておくことの大切さを、今も痛感しているところです。

看護師長(医療安全管理係長) : 江渡 しのぶ

 
 

看護の日のイベント

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地域医療連携委員会からのお知らせ

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 地域医療連携委員会では下記の日程で、平成28年度第1回の講演会を開催いたします。当院の児童指導員が「福祉施設における虐待が発生する背景を考える~同調現象が作る、負の連鎖を断ち切るために~」について講演します。
 昨今、世間を騒がせている「虐待」という事件。なぜ、これほどまでに騒がれ、法整備も整えられてきているのに、虐待はなくならないのでしょうか。虐待が発生する背景を、医療・福祉職に従事している人間の心理的状態、そしてそれがきっかけで生まれてしまう「同調現象」をベースに検討し、そして、それが作り上げてしまう負の連鎖を断ち切るための対策を一緒に考えましょう。
 医療従事者、介護職等多くの方々の参加をお待ちしております。

日時 平成28年6月2日(木)18時30分から
会場 いわき市総合保健福祉センター 多目的ホール

 

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ttr14_06  皆さん、お久しぶりです。尾田先生からバトンタッチを受け、私がしばらくこのコーナーを担当することとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。今回もまた、神経内科疾患に関する種々の話題を中心に書いてみたいと思います。
 パーキンソン病は、いわゆる神経難病の中で最も多い疾患です。たしかに完治させることはできませんし、病状は徐々に進行していきます。ただ他の難病とは異なり、有効な薬剤がいろいろと存在しておりますし、少なくとも発症当初は治療によく反応してくれますので、私たち神経内科医にとっては治療のしがいのある疾患です。従来は振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害(転びやすい)といった運動症状のみが注目されてきましたが、実はパーキンソン病の症状はこれ以外にも多岐にわたります。便秘、頻尿、流涎などは比較的よく知られていますが、睡眠障害、嗅覚障害なども高率に合併しますし、疲労感や体の痛みを訴える方もいらっしゃいます。さらに無気力、幻視といった精神症状や認知機能障害も稀ならず伴うことが明らかとなってきました。英国での研究では、発症10年目で46%の患者が認知症になった(一般人口の2.6倍)との報告があるくらいです。たしかに運動症状はパーキンソン病の中核症状ですが、こればかりに注目していると、他の問題点を見逃してしまう恐れがあります。パーキンソン病は全身疾患である、ということを常に念頭に置いて治療に当たる必要があります。

 
 
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