コラム 「頭痛について」   診療特別顧問 尾田 宣仁

第1回 序章

 およそ、この世界に生を受けた者で、これまで一度も頭痛を経験した事の無い人はいないと思います。
 WHO(世界保健機構)の調査によれば、1年間に全世界人口の約半数が頭痛に罹患しており、頭痛は全世界的にも重大な健康問題の一つであるとされております。それ位、頭痛はポピュラーな症状ですが、あまりにも普遍的な症状であるためか、特に日本では、頭痛が治療の必要な病気であると認知されず、脳腫瘍、クモ膜下出血など脳の器質的疾患が見つからなければ、治療の必要は無いとまで看做されることが多い現状です。
 また頭痛を訴えて受診する診療科も、一般内科、整形外科、婦人科、神経内科、小児科、脳神経外科、心療内科、精神科など実に多岐にわたっております。それだけ一般的には、頭痛が捉えどころのない、漠然とした、真剣に取り組む必要性の乏しい訴えであると思われている証左でもあります。
 ところが先に述べたWHOの調査では、頭痛のために就学や就労などの社会的活動が年平均3日間は休まざるを得なく、また無理して就学、就労しても、頭痛患者さん全体の3/4は通常よりも著しく作業効率が低下するとされております。そのために被った経済的損失は日本だけでも年間 3000億円以上にもなると推計されております。
 このように頭痛はそれを患う個人のみならず社会にも多大の損害を与える由々しき疾病なのです。まさに頭痛からの解放は差し迫った課題なのです。さらに、現時点におきましても、大多数の頭痛に対しては有効な治療法が確立いたしております。
 私はいわき地区で唯一の頭痛専門医として、これから何回かにわたり、頭痛の疫学、分類、病態生理、治療法などを説明し、頭痛を正確に診断し、頭痛の種類に応じた対処法、薬剤選択などについて説明していきたいと考えております。そうして頭痛に悩み苦しんでいる多くの方々に、救いの手を差し伸べるきっかけを与えることが出来たら、この上ない喜びと思います。

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第2回 頭痛とは何か?

 私たちが日常生活を営む上で、毎日、実に多くの事象が発生し私たちに影響を与えます。
 頭痛に限らず、痛み感覚は私たちの体の内外に発生する様々な出来事の中で、生体に害をなし、生命維持を危険にさらす可能性のある刺激を感知し、それから遠去かり、私たちの生存を健やかに維持しようとする最も原始的、根源的な感覚です。痛みは生命保持のための必須の感覚と言えます。
 外部環境、内部環境の変化は全て私たちの全身に張り巡らされた感覚神経系が感知いたします。人間存在は全て脳に由来するものですから、脳を収容している頭部及びその周辺には特に密に感覚神経系は分布いたしております。
 しかし、皆さん驚かれるでしょうが、脳味噌自体には痛みの受容器は無いのです。従いまして、脳はメスで切っても痛みは感じませんので脳自体の手術は麻酔無しで可能です。
 それでは私たちが頭痛を感じている時、実際は何が痛みを感じているのでしょうか?
 脳に到達するまでの様子を実況中継いたしますと、まず頭の皮を切り、皮膚の下にある筋肉(頭や顔にも実に多くの筋肉があります!)も同様に切開し剥がし、更にその下にある強固な頭蓋骨を切開、除去してようやく脳に到達することが出来ます。ここまでの過程で通過する皮膚、筋肉、骨は全て痛みを感じる神経が豊富に存在いたしますので麻酔無しでは脳に至ることは出来ません。皮膚や筋肉を切り、頭蓋骨を切離しようやく脳に到達いたしました。しかしながら、脳は頭蓋骨の下にむき出しで存在するわけではありません。脳は三重の膜で覆われ保護されております。頭蓋骨に近いところから硬膜、クモ膜そして脳自体に密着しはがすことが不可能な軟膜の3つの膜です。このうち硬膜には痛み受容神経(三叉神経)が豊富に存在しており、クモ膜の下(くも膜下腔と言います)と軟膜の間にあって脳を栄養する大血管にも痛みを感ずる三叉神経が密に分布しております。それ以外の脳組織には痛み受容装置は存在いたしません。 
  また、脳周囲の眼、耳、鼻、歯、のど、頸部などの痛覚線維は三叉神経自体、或いは三叉神経と豊富な結合を持つ神経ですので、それらの部位の異常(例えば中耳炎、副鼻腔炎、眼精疲労、肩凝りなど)を頭痛として感ずることがあります。従って、意外かもしれませんが、頭痛とは脳自体の痛みではなく、頭皮、鼻などの脳の近傍組織や脳を包んでいる硬膜及び脳の大血管の痛み、神経で言うと三叉神経が受容する痛みであると言うことが出来ます。脳実質に至るまでは厳重に保護されてはいるが、脳自体は案外、無防備で裸の王様だということかもしれません。
 結論的に頭痛患者全体で本当に脳に病変を持つ人はほんの少数に過ぎないのであって、大多数の頭痛患者さんは、脳の病気を心配する必要は無いということです。

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第3回 頭痛の分類

 医学が数学や物理学のように純粋に科学として成り立つか、という根源的な問いに対しては必ずしもYESと胸を張って即答し難い面もありますが、一応学問として存在し、発展するためには疾病を分類し体系化する作業が必須であります。
 頭痛に関しましても、その成因、性状、持続時間、随伴症状の有無などの臨床的特徴の観点から幾つかに大分類され、その下に多くの細分類がなされております。
 何故そんなことをするのかといえば、頭痛によって有効な治療法、治療薬が異なるからです。最新の国際頭痛分類第2版は2004年1月に出版され、日本はもとより全世界でこの分類の基盤の上で論議がなされております。以下のごとく 3つの大分類と14の細分類から構成されております。
 一次性というのは、少なくとも現時点では原因不明の頭痛、二次性というのは頭痛の原因として明らかに推定できる病変のある頭痛のことです。ただしⅡ.Ⅲの細分類に提示した代表例は原本には無く、私がつけたものです。

Ⅰ.一次性(機能性)頭痛
  1. 片頭痛
  2. 緊張型頭痛
  3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛
  4. その他の一次性頭痛
Ⅱ.二次性(症候性)頭痛
  1. 頭頸部外傷による頭痛
  2. 頭頸部血管障害による頭痛---代表はクモ膜下出血
  3. 非血管性頭蓋内疾患による頭痛---代表は脳腫瘍
  4. 物質またはその離脱による頭痛---代表は鎮痛剤の乱用
  5. 感染による頭痛---代表は髄膜炎
  6. ホメオスターシスの障害による頭痛---代表は潜水病
  7. 頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛---代表は蓄膿、緑内障 1
  8. 精神疾患による頭痛---代表はうつ病Ⅲ.頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
  9. 頭部神経痛および中枢性顔面痛---代表は三叉神経痛
  10. その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛---分類・詳細が不明

 上記14細分類の各々に詳細な診断基準が付いております。この細分類を見ただけで、それこそ頭痛が起こる方もいらっしゃるかもしれません。
 次回からは主要な頭痛の診断と治療に関して述べていきたいと存じます。


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